複合化する世界の環境、紛争リスク 市民が連携して「行動を起こす人」になることが社会を変える鍵になる

国際政治学者の目加田説子さん 講演会

会場からの質問に回答する目加田さん(5月27日、神奈川公会堂)

WE21ジャパンは5月27日(土)、第24回通常総会記念講演会「今、改めて平和について考える~四半世紀の活動経験から~」を開催した。講師としては、TV番組でコメンテーターとしても活躍している国際政治学者の目加田説子(もとこ)さんが登壇。目加田さんは、日本の様々な市民活動について「グローバル化の時代に20世紀型の活動をしていないか」と提起。分業体制になってしまっている日本の市民活動に対する課題と、市民ひとりひとりの行動の重要性について参加者に問い掛けた。

■市民活動の分断と複合化する“ポリクライシス”

目加田さんは、今の日本で行われている市民活動を“20世紀型”と評価する。環境課題や貧困、難民問題など、それぞれが問題意識のある課題に取り組み、「タコつぼ的」活動を広げているためだ。

「気候変動の問題、少子化、難民問題など、身の回りにある問題はそれぞれ結びついている。だからこそ市民活動はもっと連携しないといけない」と話す。

これに対し、目加田さんは、21世紀型の世界的課題として「ポリクライシス」のリスクを挙げる。

ポリクライシスとは、今年1月に世界経済フォーラム(WWF)が提言したキーワードだ。気候変動やパンデミック、核戦争など多大なリスクをもたらす2つ以上の事象が同時に発生すると、それぞれが個別に発生した場合の何倍もの複合的な被害をもたらすことを示す。

例として挙げられるのが、中国、インド北部、パキスタンの三か国を流れるインダス川の水資源をめぐる問題だ。インダス川はヒマラヤ山脈の氷河の水源とし、定期的に流れ出す融解水によって周辺に暮らす約3億人の人びとにとっての「給水塔」となってきた。しかし、近年の地球温暖化の影響で、氷河が急激に縮小し、下流域のパキスタンでは昨年大規模な洪水が発生した。世界銀行は2050年にはこの地域で約17億人が水不足に陥る可能性を指摘している。

インド・パキスタン・中国は核保有国でもある。特にインドとパキスタンはテロ問題などで衝突を繰り返してきた。三か国間の水をめぐる問題が高じて、核戦争に発展する可能性もある。万が一そうなってしまった場合、互いに都市や産業地帯を攻撃し合うと、火災で生じた大量の煤等が大気中に広がり、太陽光が遮られることで、地球が寒冷化し10億人規模の飢餓状態が生じかねないとの予測もされている。

目加田さんはポリクライシスについて、「一つ一つ“水の問題”や“核兵器の問題”ではなく、それらが重なることで2乗3乗になり、グローバル規模で対応しきれない被害が生じかねない」と危機感を語る。

■“お金の流れ”に注目する

また、目加田さんは、近年盛んになっているESG投資のように、お金の流れに注目することの大事さについて述べる。その理由として「グローバル企業が今の私たちの生活に与える影響があまりにも大きいと思う」と話す。「地球温暖化への影響や、格差や人権侵害など、国境を越えて問題を拡散してしまっているのではないか」

ESG投資とは、企業の環境や従業員の人権・労働基準への配慮、企業統治の状況などを投資の判断基準とすることだ。例えば、欧米を中心に、海外の機関投資家や年金機構などの機関が、ミャンマー紛争下での人権侵害に関わった疑いのある企業を、投資先から外すなどの動きをしている。

こうした投資家などの行動が、特にグローバル展開をしている日本の企業にもプレッシャーとなり、日本国内でも投資家や企業が、環境や人権課題など社会問題への配慮を重要視する動きが広まった。日経テレコンによると、日本でもESG投資に関する記事数は、2010年はわずか10件程度だったのに対し、2022年時点では3500件にも増加している。

■私たちがすべきこと

目加田さんが副代表を務める(特非)地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)では、「私のお金、私の責任!」と題したキャンペーンに15年程取り組んでいるという。そのテーマについて、「私たちがお金を預ける銀行が、私たちのお金を使ってどの国に投資し、何に融資しているのかを関心と責任を持たないといけない」と目加田さんは強調する。

目加田さんは以前、自身が預金口座を持っていた銀行がクラスター爆弾を製造する企業に融資していたことを知り、「夜も眠れなくなった」ことがあったという。預金はすぐに全額引き出し、信頼できる別の信用金庫に移した。

目加田さんは、参加者に向けても、預金口座を持つ銀行の窓口や広報の担当者などに、銀行の融資先に、環境問題や人権侵害等の問題がある会社を選んでいないか、等を聞いてみてほしいと促した。それによって、銀行側は預金者が何に関心を持っているのか、把握することができるという。

一人が銀行窓口で尋ねるといった、小さな行動を積み重ねることで社会は変わり得る、と目加田さんは語る。「一人だけなら“変な人”と思われるだけかもしれないけれど、多くの人が意見を持ち、100人、1000人、10000人が動いたら、それぞれの預金額は小さくても、銀行は変わらざるを得ない」

最後に、目加田さんは今後の市民社会に対して「連帯」というキーワードを挙げた。「皆で力を合わせ、21世紀型のクリエイティブな社会運動を作っていくべき。『あなたが変えてよ』と政治に責任を押し付けるのではなくて、私たちは自ら行動を起こさないといけない」と力を込めて呼びかけた。