「軍事力で日本の安全を保障する」を疑う 平和を守るために私たちにできることを考える

1月9日(祝)、平和政策講座を開催

左から湯浅一郎さん(NPO法人ピースデポ代表)、高橋悠太さん(KNOW NUKES TOKYO共同代表)

(特非)WE21ジャパンは1月9日(祝)、横浜市青少年育成センター(横浜市中区)にて核兵器と平和を考える講座を開催した。昨年12月、日本政府は防衛力の強化を打ち出し防衛費を5年間で対GDP比2%とする閣議決定をしている。基調講演に登壇した(特非)ピースデポ代表の湯浅一郎さんは「核兵器を頂点とした、軍事力による安全保障を考えること自体に問題がある」と言い切る。

■軍事力による安全保障は実現できるのか

核兵器が1945年に歴史上初めて使用されて以来、その数は世界の軍事的な緊張状態に沿って増減してきた。(特非)ピースデポの調査によれば、米ソ冷戦期の1986年には最も数が多く、およそ7万発であった。現在(2022年6月)時点では約12,270発が世界に存在している。

冷戦期は、例えばアメリカが軍事力を増強させると、ソ連が対抗して軍事力を増強させる、という流れにより軍拡が進んだ。その応酬が40年間で約7万発もの核兵器を生み出したのだ。湯浅さんは「冷戦の経験から分かるように、どこかの国が軍事力で安全を保障しようと考えれば、他の国も同じことを考える」と話す。「いつまでも安全は保障されず、軍拡と緊張が広がるだけにしかならない」

しかし冷戦は「共通の安全保障」の考え方のもと、1989年に終結した。共通の安全保障とは、冷戦後期に国連で提唱された安全保障概念で、アメリカ・ソ連間の軍事的な緊張の高まりの中、安全保障は両陣営にとって共通で必要とされているものとして、相互に協力し軍縮により確保する必要があるとした考え方だ。それにより、約30年で核兵器の数は約5分の1まで減少できた。

湯浅さんは「まず軍事力による安全保障は軍拡の悪循環に陥ってしまうという構造を理解する。その上で、共通の安全保障の考え方をもう一度思い出す必要がある」と話す。

■『核の傘』を疑う

湯浅さんと共にゲストスピーカーとして登壇した、KNOW NUKES TOKYO共同代表の高橋悠太さんは「自分たちの立場から恐怖や猜疑心のレンズだけで見ていても物事は変わらない」と話す。同団体は高橋さんら大学生を中心に、核兵器を廃絶するための活動に取り組む。昨年からは、全国47都道府県を周り、知事訪問、議員面会、地方議員を巻き込んだ講演会などを各地で実施している。

様々に変化している世界情勢の中、政府は今後5年間で防衛費を大幅に増額し、軍備を拡大する方針を示した。高橋さんは「いくら日本側が防衛力強化のための軍備拡大だといっても、相手からしたら『ミサイルを向けられている』という脅威でしかない。冷静に考える必要がある」と指摘する。

加えて高橋さんは、核兵器の抑止力を前提に安全保障を図る『核の傘』の考え方を“疑う”必要があると主張する。核兵器の抑止力は核兵器が使用されないことを前提としている。高橋さんは「常に核保有国が理性的であるとは限らない」と危機感を募らせる。

また、日本政府がアメリカの『核の傘』を想定した安全保障政策を基本として考えていることについても指摘する。「政治宣言は存在するが、現実に戦争が起きた時、アメリカはあくまで自国の利益を優先した対応をするのではないか。日本を守るために、自国の軍を危険にさらすとは思えない」

■私たちの暮らす地域から平和を考える

湯浅さん、高橋さんは、核兵器のない世界を実現するために地方議会や地方自治体の果たす役割が欠かせないと考えている。(特非)ピースデポによれば、地方議会から日本政府に『核兵器禁止条約』へ署名・批准することを求める意見書は、2021年末時点で全国の610市区町村議会、7県議会において採択されている。高橋さんは今後について「もし複数の議会から同時に意見書が挙げられたとしたら、国政もその内容を無視できない」と力を込める。

また、地方自治体については、9割以上が『非核平和都市宣言』を出している。元広島市長の呼びかけで設立された、核兵器のない平和な世界を目指す国際機構『平和首長会議』に、日本の地方自治体は全体の99%が加盟した。

これらの数字から、湯浅さんは「形式的だとしても、日本の自治体の核兵器廃絶への関心は世界的に見ても高い」と話す。「自治体全体の力を信じ、各地域で話をすることは私たちが思っている以上に効果があると思う」

一方で、高橋さんは「核使用や核軍縮の問題について、地方議会や自治体が対処する責任を理解してもらうことが大事」と強調する。これまでに全国各地を訪問する中、多くの行政担当者に「核軍縮や核兵器廃絶は国政が決める問題なので何か言える立場にない」と言われてきた。しかし、神奈川県横須賀市など、日本では多数の米軍基地が生活地域に隣接している。仮に戦争状態になってしまった場合には、真っ先に核兵器等に狙われてしまうことが考えられ、その際に初動対応を問われるのは自治体だ。

加えて、高橋さんは軍備の拡大に反対する姿勢を普段から表明しておく必要性を主張する。

「これまでにも秘密裏に持ち込まれるなど、核兵器に関する決定は表立ってされることはなかった。大事なのは常日頃から核兵器の配備に対し地方議会が意思を持って『NO』と言い続けること、市民が『NO』と言えるシステムを作ることだ」。核兵器のない世界で平和を広げるために、一歩ずつ進んでいきたいと話す。